おんななんて、うざったい。
だって、一緒にサッカーできないし、転ぶと泣くし、なにかっていうとすぐ怒るし。
そう言ったら従兄弟の兄ちゃんは「おまえも転んだら泣くじゃん」って言って笑った。
小学校でずっと一緒に遊んでいた、しんゆうのゆういちくんに相談したら「あんなかわいいこに好きになってもらえるなんてうらやましい」って本気で言う。
あんなやつ。
いくらかわいくったって生まれたときからずっとずっと一緒にいるんだぞ。
だから、いつだったか、理由なんか忘れちゃったけど、ちょっとのことですごいすごい怒るから、つい「おまえなんか嫌いだ」って言っちゃったんだ。
そしたらクラスで一番大きい瞳をちょっとの間いっぱいに開けて、それからゆっくり下を向いてだまりこんだ。
いつもいっぱいしゃべるくせに、こんなときにだまるなんて、ずるい。
いつもすぐ泣くくせに、こんなときに歯を食いしばるなんて。
「……ごめんな」
もう中学生になったのに、たぶんいまも、あかりに歯を食いしばらせて我慢させてる。
アキラが、
あいつがあんまり眩しいから、いまはあいつ以外見えないんだ。
ほかのすべてのことが、オレにとってどうでもいいことになってる。
あかりのことも。
友だちのことも。
学校のことも。
全部。
「…ゆるしてあげない…」
涙をいっぱいにためて見上げてくる瞳に、例えようもなく安心する。
クラスのやつらに冷やかされたけど、手をつないで通学路を歩いた。
振り返ると、いつもそこにいる。
あれは確か、冬の日だった。
「ごめんな」
脈絡もなく口にした謝罪の言葉に、あかりは視線をそらした。
もう、めったに一緒に帰ることはない。
となりから小さなため息が聞こえた。
☆ ☆ ☆
ヒカルとあかり
なんて狙いすぎな名前、普通つけないと思う。
親同士が仲良くて、子供が同じ年の同じ月に生まれたからってそんな対になる名前じゃ、
いつも一緒にいないとおかしいじゃない。
結婚しなかったら恥ずかしいじゃない。
なんて脳天気な親たち。
それでも、女の子みたいにかわいいヒカルに、親たちの押しつけからじゃなく好かれてるってわかってたから、ずっと待ってたのに。
ずっとついて行こうって思ってたのに。
いつまでたっても振り返らないで、どんどん行ってしまうヒカル。
そんなに早く走ったら、いくらわたしでも追いつけないよ。
「ごめんな」
少しの間に男の子っぽくなったヒカルが、何気なくつぶやいた。
そんな言葉じゃごまかされない。だってもう、手だって引いてくれない。
ぜったいに、
絶対に一生、ゆるしてあげないんだから。